「温故創新」220308 N1012伊波喜一

父看取る 手足さすられ 何思う 末期の姿 最後のギフト 

 乾燥した日が続いている。午前1時45分、ホームから電話があった。父が「家族を呼んでほしい」と伝えているとのことで、急ぎ駆けつけた。

 呼吸は苦しそうだが、父の意識はまだしっかりしていた。延命措置をしないというのは、父の意思であり家族の意思でもあった。95歳という年齢を考えても、胃瘻(いろう)や点滴での延命は望んでいなかった。むしろ、家族との時間を過ごせることを重点に置いた。

 一番の課題は、どのタイミングで看取りが出来るかである。自宅で看取ることも考えたが、そのためには地域医療にシフトしなくてはならない。ケアマネージャーと連携し、在宅医の確保もしなくてはならない。しかし、父の余命を考えると、そこまでの時間はとても取れない。その点、ホームでの看取りが可能だったのが幸いした。

 父は最後まで耳がよく聞こえていて、看護師や介助の方たちが声をかけると、手を挙げて合図していた。父がこれまで家族にしてくれたことに感謝の言葉を伝えると、拍手して喜びを表していた。

 そして、みんなで仲良く協力するよう、手を合わせさせた。その事を、父は一番訴えたかったのだろう。その深い意味を理解するには、まだまだ時間がかかる。

 だが、寿命が尽きようとする最後の瞬間に父が託した思いは、一人一人の心に消えない思い出として残り続けるに違いない。