「温故創新」221019 N1127 伊波喜一

積年の 願い果たさん 生前の 育英資金 父の遺志継ぎ              

 朝方までの雨が止み、昼前からは薄日が差している。上空は風が強いようで、雲の流れが早い。

 3月に亡くなった父の願い通りに、公益財団法人 沖縄県国際交流・人材育成財団に寄附をさせていただいた。父自身、篤志家の好意と奨学金で、大学へ復学することが出来た。家族の養い手でもあり、経済的に余裕がない中で、その有難さが身に沁みた。

 日本はとにかく、教育に金がかかる。そんな中、高校授業無料化が進められたのはとても良いことだ。

 しかし、それ以上の教育を受けるとなると、全て家庭の負担となる。欧米のように寄附金の習慣も制度も社会に根づいていないので、家計に占める教育費の負担は想像に余りある。

 先の大戦で父は兄弟を失い、自身は学徒出陣で脚を撃ち抜かれ重傷を負った。祖父は外地で捕虜に取られ、頼るべき人がいなかった。祖父が帰国するまで家族を支えるために、孤軍奮闘した。食べることさえままならない中で、向学を口にすることは憚られた。

 その父を、村の篤志家たちが協力して、大学に通わせてくれた。その後、育英基金などが少しずつ整備されてきた。晩年父はその事を、折りにふれて語っていた。よほど、気になっていたに違いない。

 父が亡くなる直前に「望みどおりに寄附する」ことを伝えたら、満足げにしていた。 今、その約束を果たせて、ほっとしている。