「温故創新」260806 N2059 伊波喜一

災害の リスク軽減 分散化 供給網の 多極化必須  

 広島の81年がめぐってきた。静穏の木立ちの中から突然姿を現す原爆ドームは、無惨な姿をさらけ出して、人が人を殺めることの悲惨と愚かを語りかけている。継承するのは、今世の使命であり役目だ。

 熊本県で起きた地震により、県内に集積する半導体工場への影響が長期化する懸念が高まっている。半導体受託生産の世界最大手、台湾電路製造(TSMC)の熊本工場(菊陽町)は、通常生産に戻っていない。建物の安全を確認し、水や電力の供給も確保できているが、「揺れが続いているため、装置の調整に一定の時間を要する」そうだ。

 半導体は、清潔な環境での微細な加工が必要である。そのため、設備の点検を経て通常生産に戻すには、慎重な確認が必要となる。

 ルネサンスエロクトロ二クスは、自動車向けのマイコンを手がけている。天井パネルの落下や漏水などの被害があり、錦町と熊本市の工場に影響が出ている。半導体同様にマイコンのような精密機器も、水や空調、振動や電力の微細なコントロールが不可欠である。

 そのため、これらの安定した供給が不可欠で、自然災害の影響を出来得る限り受けない立地を選んで、工場が建設されている。それでも自然災害は容赦なく起こることを考えると、災害のリスクを軽減するために、供給網の分散化が避けられない。あわせて、日本の成長産業の多極化を検討し、決定していく必然性があろう。

 国の成長戦略がその芽を吸い上げるものである事は、論を待たない。 

「温故創新」260805 N2058 伊波喜一

質問は 何でも相談 AIに アルゴリズムの 網の目に落ち  

 どこからどこに向かっているのか、アリが動き回っている。庭やコンクリートの割れ目に、巣でも作ろうという魂胆なのかも知れない。

 瞬時に、淀みなく、合理と思われる回答をしてくれるAIは、今や信頼出来て頼れるパートナーとなっている感がある。

 バイオメトリックデータ(生物学的データ)は、医学の分野では日常化しつつある。24時間心電図を測定し、24時間体制で健康状態をモニターできる。そうなると、ビッグデータアルゴリズムは私達が異常を感ずるよりも以前に、症状をとらえることが出来る。

 例えば、ガンやアルツハイマー病を、最初期の段階で検知することが出来る。そして、各人に特有の体格やDNAや性格に合った適切な治療や措置、食事、養生や節制の仕方を推奨出来る。

 2050年までには、バイオメトリックセンサーとビッグデータアルゴリズムとで、病気は痛みや障害につながる以前に、診断され治療されるようになるかも知れない。その結果、人は常に何らかの健康問題を抱え、アルゴリズムの提供を気にせざるを得なくなるだろう。

 この提供は「指示」と置き換えられる。指示に従わなければ、医療保険の適用を受けられない社会になる可能性さえある。利便性の高いAIに判断を委ねた結果、その判断に苦しめられる結果となってしまう。自身を振り返り、見つめ、内心の声に耳を傾けなければ、主客(自分とAI)が顛倒してしまう結果が、現実に起きているのだ。

「温故創新」260804 N2057 伊波喜一

育休の 悩み抱える 男性が 見えない不安 語る場ありて  

 熊本地震から1週間が経った。余震が続き、猛暑の中での片づけは、大変な作業となる。体調管理をしながら、復旧を目指してゆきたい。

 男性の育児休暇取得率が上昇している。父親向けの育児休暇「産後パパ育休」が始まって、今年10月で4年になる。男性の育児休暇取得率は2024年度に40.5%と、過去最高を記録した。

 この背景には、制度の周知や企業への公表義務化の効果が挙げられている。ただ、育休取得率の公表が義務付けられているのは、従業員が300人を超える企業に限られているため、中小企業まで十分に浸透しているとは言えない。また、育児取得者の4割程度は、期間が2週間未満にとどまっている。今後、取得率を高くするのと同時に、育休の質や中身を考えていく段階へと、進んでいく必要がある。

 信州大学医学部附属病院「周産期のこころの外来」の医師、村上寛さんは、男性は孤立しやすい状況にあると指摘している。父親同士が育児の悩みを共有したり、支え合ったりする機会が少ないため、一人で抱え込むケースが多い。国立成育医療研究センターの発表(2020年)では、産後1年間にメンタルヘルス不調のリスクがあると判断された父親は11%で、母親の10.8%ほぼ同じだった。

 保健師や助産師の訪問など、母親への手厚い支援については、今後、父親にも必要となる。あわせて、安心して育休を取得できる職場環境や復職後の支援体制など、国の取り組みが求められている。 

「温故創新」

利己的に 自己抑制を 失いて 規範意識を 取り戻すには  

 夏は雷雲が相場だった。天候の急変で、大慌てで洗濯物や布団を取り込んだものだ。今ではゲリラ豪雨がすっかり日常になってしまった。

 歴史人口学者のエマニュエル・トッドは「西洋の敗北」で、欧州や米国で虚無主義が広がっているのは、キリスト教の衰退がその原因であると指摘している。社会規範を支えてきたキリスト教の衰退は、共通の価値観や倫理観を見失わせ、混乱に拍車をかけている。

 無宗教と言われる日本では、どうだろうか。特定の宗教を持っている日本人の割合は少ないが、宗教的な規範の影響を受け、それを持ち続けてきた。譲り合いや思いやり、目上を敬い目下に優しくなどの美徳や美点は、社会規範や通念を底堅く築いてきたと言ってよい。

 日本社会がグローバル化へと舵を切り、個人の責任と能力に過度に重きを置くようになった頃から、社会規範がたわみ、利己主義が広がってきた。成功も失敗も全て自己責任、自分の事は自分で始末せよと、助け合いや支え合いを否定するような雰囲気が出て来た。

 効率と能率を絶対とする社会では、早く正確にが基準となる。その波に乗れなければ、そこに留まることさえ出来なくなるのだ。

 人の一生は平坦なように見えて、意外な山坂がある。道が途中で途切れることだってある。そんな時に人は立ち止まり、思いを深くせざるを得ない。規範意識が希薄な今だからこそ、祈りや思いをこめる場があり、語る仲間がいることは、希望の証となろう。

「温故創新」260802 N2055 伊波喜一

AIに 頼りっぱなし 無批判に 受け入れするか 認知衰え  

 今日は祖父・安永の祥月命日である。筆者が5歳の時亡くなったが、生前「将来を見届けたい」と話していたそうだ。戦争で子ども達を失い、平和の世を願う気持ちは、いかばかりだったことだろうか。

 学習は言うに及ばず、買い物から仕事のアシスト、人生相談まで、今や生成AIなしでの生活は、考えにくくなっている。便利で分かりやすく親切で、時間短縮してくれるAIは、魔法のツールである。

 米ペンシルベニア大ウォートン校のチームは、正答と誤答をランダムに返すAIを使った実験をした。相談時にAIが正しい回答をした場合は、約93%が受け入れた。ところが、間違った回答をした場合でも、約80%がこれに従った。間違った回答をした場合、参加者の正答率はAIを使わなかった人と比べ、約15㌽低かった。AIを使った人は、自分の答えへの自信が、使わなかった人より約12㌽高く、誤答が続いても下がらない。チームはこの結果を、「認知的降伏」と説明している。自分で考えたり調べたりせず、全てAI頼みになれば、約80%が無批判にAIの判断を受け入れてしまう。内閣府の調査でも、利用者の25%が「考える時間が減った」と回答したという。

 これは今、いたるところで見られる現象と軌を一にしている。物事の事象の表面だけを捉え、本質にまで迫らず、速考し即断する。他者への理解と共感、事実確認なしで、どうして物事の本質に迫れるというのだろうか。道理を差し置いて、事の本質を掴み取ることは出来ない。

「温故創新」260801 N2054 伊波喜一

教育の 根幹を成す 指導者の 精神疾患 離職最多  

 旧暦8月は葉月(はづき)と呼ばれる。木々の葉が紅葉して落ちる「葉落ち月」が略されたとも言われる。秋風月、月見月、雁来月(かりきづき)、木染月(こぞめづき)など、余韻のある言葉である。

 2024年度に精神疾患を理由に離職した公立小中高校の教員が、計1319人で過去最多を更新したことが、文科省の学校教員統計調査で分かった。前回21年度調査から369人増え、初めて1000人を超えた。私立を含めると、さらに増加する。これは定年退職を除く離職者1万5540人の約8.5%に上る。加えて、精神疾患による休職者は7000人を超え、文科省は「教員のメンタルヘルスは喫緊の課題で、対策に取り組む」としている。 

 教員を巡っては、業務量増加や民間企業の採用活動早期化などを背景に、志望者が減少している。業務量の増加は深刻で、勤務時間内に終えることが難しい状況が常態化している。本来の業務である授業の準備に関わる時間に加えて、価値観の多様化により、子どもの生活指導や保護者との意思の疎通の難しさを、以前から指摘されている。

 全国的に教員が適正人数に配置されない、いわゆる教員不足が深刻化している中で、現職教員への負荷がさらに高まり、職場環境の悪化を招いている。人が育たなければ、国家は成り立ってゆかない。教員の修士課程への授業料免除やスクールカウンセラーの全校配置、職員数をふやすなど、国は教育に予算と人を投入しなくてはならない。

「温故創新」260731 N2053 伊波喜一

再生を 日本の英知 結集し 基本戦略 構造改革  

 昼日中は人通りが絶える。風が止まると、暑さが肌にまとわりつき、気分が悪くなりそうだ。時折、救急車のサイレンが飛び込んでくる。

 7月、延長国会も終わり、議員は地元回りに汗を流す頃である。有権者からの声を聞き、それを政策に生かしてゆく。ただ「私生活主義」が跋扈(ばっこ)する現代は、ともすると大衆受けする政策が風靡(ふうび)しかねない。「50年後の日本の進むべき道を目指して」と訴えても、有権者は短い単位でしか判断しない傾向にある。

 代議士(議員)はそれに応えるだけでは、ポピュリズムに堕す。オピニオンリーダー(世論形成者)として、現実の政策を確実に進めながらも、日本の進むべき方向と骨格を形づくらなければならない。

 前述の寺島実郎氏は「新しい公共」という概念を提供している。これは社会貢献に参画するプログラムを設計し、財政基盤を作り、実際に公共に携わる人を増やすシステムを築くことである。

 例えば、青年期の1年間、教育や防災、国際貢献などの公共分野から選び、実際に参加する「選択的社会貢献制」を提案している。また高齢者も「地域創生委員」として有償で仕事を担うとしている。

 この考えは、自利に籠りがちな志向を利他へと転換する契機となろう。自分中心では社会との接点は生まれない。自ら能動的に関わってこそ、自分の存在感を実感でき、社会貢献を実体験することが出来る。

 人のためにともした灯は、回りて自らの足元を照らす一灯となる。