「温故創新」240314 N1404伊波喜一

少年の 夢を育み 指し示す 巨匠の描く 世界に浸る  

 サクランボの花が、五分咲きである。暮れにかなり枝を落としたのでどうかと案じていただけに、白い花弁が目に優しく映る。

 宮崎駿監督の映画「君たちはどう生きるか」が、第96回アカデミー賞の長編アニメーション賞を獲得した。

 戦時下で母親を火事で亡くした少年眞人が、黄泉の世界の母親を捜しに行く。そこは甘美な世界であり、留まりたい誘惑に駆られる。しかし、眞人は現実の世界で共に生きていく道を選択する。

 理想郷と異なり、現実は複雑で不明で混沌としている。少年の知恵では、窺い知れない深い闇が存在する。しかし、先が見通せない分、少年は自分の考えで突っ走ることが出来る。たとえそれが大人の敷いたレールから外れようとも、若さゆえの挑戦には意味がある。

 眞人の生き方は一見、無鉄砲に見える。計画的ではなく、行き当たりばったりの感がある。確かに自ら考え、考えの通りに突き進むことは決して簡単な事ではない。現実の苦しさから逃避する方が、生き易いと感じてしまう。

 そんな時に、敢えて困難の道を選択するには、余程の覚悟が無くては出来ないことだ。その積み重ねが、結果として自分らしく生きることに通じていく。

「この世は生きるに値する」と、かつて宮崎監督は少年達に語った。苦しい現実に喘ぎながらも、一歩踏み出す勇気を下支えしてゆきたい。

「温故創新」240308 N1403伊波喜一

父逝きて はや3回忌 早足に 春雪残りて 墓参出来ずか  

 降り積もった雪が、雨に打たれている。軟雪でもう溶け始めている。

 父の3回忌の今日、姉と上さんの3人で父の墓参を予定していた。が、今朝方まで降り積もった雪が思った以上に深く、断念した。

 筆まめな父は、筆者の学生時代、毎週のように手紙を送ってきた。社会人になっても隔週、送ってきていた。手元にあるこの手紙は正確な日付が分からないが、平成元年頃と思われれる。

 戦前の軍国主義時代に青春を送った父は、バブル崩壊後の長い不況のトンネルに差しかかる時代の雰囲気を危惧していた。一言すると、一強・上位下達主義である。愚かにも、大手企業に都合の良い派遣社員制度が導入され、官民挙げて自己責任論を支持した。
 その結果、グローバリゼンーションへと傾斜し、弱肉強食が公認されたも同様となった。そのような風潮に、父は統制されていた軍国主義時代の匂いを感じ取ったようだった。

「戦争はあらゆる矛盾を破壊する一手段であり、敗戦が日本に自由をもたらした。だが自由を得るための代償は、あまりにも大きかった。だから、是が非でもこれ(自由)だけは守り抜かなくてはならない」。

 日記にはそう書かれている。勇ましい全体主義や軍靴の響きは、初めは気にも留めないぐらいの静けさで近寄ってくる。足音に気づいた時には、もうがんじがらめにされてしまっている。

 世界の状況は当時より悪くなっている。注視すべき時である。

「温故創新」240306 N1402伊波喜一

国民の 胃袋満たす 政策を 軍拡愚か 共存存続

 昨夜の雪が、小雨に打たれて溶け始めている。凍らないようだ。

 5日北京で、中国全人代が開幕した。李強首相は「政府活動報告」で、2024年の経済成長目標を5%前後に設定した。ゼロコロナ政策の失政で、経済活動や不動産不況が尾を引いた格好だ。

 23年の海外からの直接投資は、前年比82%減の330億ドル(約5兆円)となり、外資離れが顕在化した。李首相は「国家安全保障と社会の安定を守る」と、経済発展より国家安全を重視しているが、「改正スパイ法」の実行を警戒する外資の不安を、解消できない。

 一方、国防費は前年比7.2%増で、約34兆8千億円となった。実質経済成長率の約2倍である。軍拡路線を驀進中であり、国民生活に相当の負担を強いることになろう。

 社会保障費は、前年比3.12%増となる約135兆円を計上した。これは11年度の2.8倍であり、今後さらに増加することが確実視されている。中国国家統計局によると、23年の65歳以上の高齢者数は2億1676万人と、全人口の15.4%を占める。35年には21%に達する。高齢化社会日本の後追いをする格好だ。

 日本と異なるのは、年金制度と国民健康保険制度が、十分に整っていないことだ。加えて、広大な国土と人口を抱えている。インフラ整備や公共施設の維持管理に要する費用は、比べようもない。

 中国共産党の舵取りは、極めて難しい局面に立たされている。

「温故創新」240302 N1401伊波喜一

懐かしさ 思い出手繰る 30年 元気な姿 昔が今に

 サクランボの芽が、まあるく膨らんでいる。明日は雛祭りである。

 グアム時代の友人と、30年ぶりに再会した。浜松市から車で片道5時間半もかけて、わざわざ上京してくれた。

 彼女は米国に住んでいた。国際結婚して彼の母国日本へ移り住んだ。日本語は話せるし理解も出来るが、読み書きは英語が断然勝る。そのため、日本語の微妙なニュアンスが分からない。

 米国では、個人の意思が最大限に尊重される。同様に、意見は誰にも忖度せず堂々と言うのが普通だ。ところが、日本はその真逆である。慣習や習慣に戸惑う事が多く、ストレスが溜まってゆく。

 結婚を祝いながら、この30年の来し方を聞かせてもらった。米国は自由な反面、自己責任が徹底した国だ。自由は自ら勝ち取るものであり、与えられるものではない。それだけ生存競争が厳しい。

 日本はそこまではいかない。が、煩わしい人間関係を避けて生きることは出来ない。これらの文化の違いは、互いの国の奥底を通奏低音のように貫き、思わぬところでパートナーとぶつかる。

 外国で暮らすのは、並大抵のことではない。先ず語学が堪能でないと、仕事が得られない。仕事を得ても、この文化の違いを習得し、我が身に刷り込まなければ、やがて行き詰まる。アイデンティーは文化の表層を撫でたぐらいでは、到底確立できるものではない。

 日本文化への友の適応と活躍を、祈る思いで別れた。

「温故創新」240227 N1400伊波喜一

米支援 目立つ遅れに NATOが 横暴ロシア 悪見過ごさぬ

 風が冷たい。木々が幹から揺れて、梅の花を吹き散らしてしまった。それにしても、2日間にまたがって突風が止まないのは珍しい。

 ロシアの侵攻から2年が経った。ゼレンスキー大統領は、この2年間のウクライナ兵の死者数を「3万1千人」と公表した。ロシアの愚かな侵略により、有為な人材が失われたことを憤る。大統領は「一人ひとりの犠牲者が、我々にとっては甚大な意味を持つ」と語った。

 最大の支持国である米国は、共和党ウクライナ支援に反対しており、自国内にお金を使うべきだとしている。またトランプ氏は「ウクライナ支援をしても戦況は変わらず、お金のムダ」と言い放っている。 

 そんな中、スウェーデン北大西洋条約(NATO)加盟が、26日決まった。先行したフィンランドと合わせて、NATOは32カ国体制となる。スウェーデンのクリステション首相は「歴史的な日だ。欧州と大西洋の安全保障は、責任を負う用意がある」とした。

 これでNATOは、欧州北部のバルト海をほぼ囲む形となった。ロシアにとっては、同海に面する飛び地カリーニングランドからの軍事展開が難しくなる。NATO拡大を警戒してウクライナに侵攻したことが、完全に裏目に出た格好である。

 「お金のムダ」と言い切る共和党には、人道も子どもの命も眼中にない。その傲慢が、明日は我が身に降りかかってくることに、気づいていないことが怖ろしい。米国の凋落ぶりが何とも哀れに映る。

「温故創新」240223 N1399伊波喜一

東証の 株価史上 最高値 乏しすぎるか 生活実感

 窓外に白いものが混じっている。よく見ると、みぞれ雪である。底冷えするわけである。能登で避難している人達は、いかばかりか。

 昨日22日、東証は史上最高値を記録した。89年12月の3万8915円以来34ぶりに、3万9098円を記録した。

 何しろ円相場は、1ドルが150円である。円安は企業成績を底上げする。海外投資家にとっては自国通貨を多くの円に替えられ、外貨で日本株を多く買える。

 今や半導体なくしては、1日たりとも日常生活は送れない。そのため米国のエヌビディア株など、半導体関連銘柄への投資が多く流れ込み、株価を押し上げた。日本でもそれに引きずられて高騰している。 

 しかし、日本株の実力が本当にそこまであるのか、疑問である。諸物価が高騰し、円の価値が相対的に落ちている。これで、利上げをした場合、はたして家庭経済は回っていくのだろうか。

 円高になれば、輸入は割高になる。衣食住品目の全てを輸入している日本は、それだけ物価高になる。これに、住宅、車、学資ローンなどが負いかぶさると、生活はさらに苦しくなる。

 人口の1%にも満たない超富裕層の投資に踊らされ、庶民の生活が改善するとは思えない。時代の稼ぎ頭に投資するのは当然のことであるが、同時に子育てや教育、安定した老後に投資することを忘れてはならない。元来、投資のあり方はそれが原点なのだから。

「温故創新」240221 N1398伊波喜一

確実に 人口減少 訪れる 人口減の 対策必死

 サクランボの蕾が雨に打たれている。寒さが舞い戻ってきたようだ。

 日本創成会議は14年、全国の半数の自治体で2040年には人口減となると指摘した。20~39歳の女性が10年比で半数以下になり、人口減少に歯止めがかからない「消滅可能性都市」が激増すると、予想している。

 昔も今も若者は東京を目指す。働き口が豊富にあることが原因の1つだが、それだけ東京は居住費がかかる。都心では満足な広さが求められないので、郊外に住む。その分、通勤時間がかかる。満員電車に詰め込まれ、くたくたになって通勤する。

 子育ては夫婦が協力しないと、出来るものではない。ただし、夫婦で育児に関わろうと思っていても、日本のこの状況では難しい。

 女子学生へのアンケートでは、子どもを持つことをリスクとして捉えている。その理由として、子育てしにくい環境がある。近くに頼れる親や友人がいればよいが、それは稀なことである。

 また、教育費が異常にかかる。幼稚園や保育園、習い事や塾、大学院や留学と、教育への投資は果てしない。筆者も子育て中は住宅ローンの返済と学資の捻出とで、頭が一杯になった。加えて、女子学生自身のキャリアが中断することへの、不安と不公平感ものぞく。

 これらの不安要素を変えるには、自治体の取り組みだけでは限界がある。国が青写真を示していかなくては、日本が地盤沈下する。