「温故創新」220329 N1020伊波喜一

褐色の 幹も隠れん 櫻花 春を呼び出す 色鮮やかに     

 野火止沿いの桜が満開である。薄曇りの中、白い陰影がシルエットのように浮かんでくる。冬から春への変わり目を、これほど見事に表す花もないだろう。

 沖縄から北上してきた桜前線は、関東各地で花開かせ、東北地方を駆け上がる。先般、大きな地震があっただけに、東北の人々の目を楽しませ、心和ませることだろう。

 桜を育てるのは容易でない。樹液が豊富なため、アリや虫が集(たか)る。害虫も付きやすく、苔も付きやすい。枝の剪定も難しく、切りすぎると樹勢がなくなる。上手に切りながら、幹や枝全体に光が差すようにしていかなくてはならない。そうすることで葉の色つやが良くなり、幹も逞しく育つ。花も色鮮やかに咲くようになる。

 それにしても、桜にちなんだ言葉には風情がある。

 朝桜、桜雲(おううん)、花明かり、花霞、徒桜(あだざくら)、残桜(ざんおう)桜影(さくらかげ)、余花(よか)、観桜、花の宴など、想をかき立てられる。

 花嵐、花風、花曇り、花の雨など天候を表わす言葉もまた、風情を感じさせる。それだけ、桜が私達の日常と深く関わってきた証であろうか。

 桜前線は東北からさらに北上し、北海道で桜花爛漫の春を彩る。そして遅れて届いた桜を愛でると、季節は瞬く間に初夏へと移り変わる。