「温故創新」211103 N929 伊波喜一

手を引かれ 町の本屋で 月刊を 手に取る喜び 母若かりし         

 湿度が高いのか、動くと汗が滲む。11月だというのに、今朝は空気が妙に温かい。

 自転車で走っていると、地形に結構アップダウンがある。普段は気にも留めていなかったが、意外に曲がったり下りたり上ったりとしている。

 土地はいろんな表情をしていることに、改めて気づかせられる。

 今日3日は、文化の日である。文化と聞くと改まった感じがするが、特別なことではない。この世に平和で生きていられることに、感謝する。それが文化の異名であろう。

 先の大戦を経た母は生前、口癖のように言っていた。「近くに図書館があって、(勤労動員もなく)好きな時に本が読めることが、一番の幸せさぁ」。

 何か興味のある記事があると、新聞や雑誌の切り抜きを小まめに送ってきた。一番学べる時期に学べず、情報に飢え書物に飢えた世代でなくては、母の気持ちは分からないだろう。

 その母は晩年、孫達に絵手紙で季節の便りを送ってきた。折々に感じたことを、絵と言葉で書いていた。誰にも気兼ねせず、当たり前の日常を喜怒哀楽のままに感じられる喜びを、母は伝えたかったのかも知れない。

 丁寧にスケッチし色づけした様子が、絵手紙から立ち上ってくる。その温もりに、在りし日の母の面影が浮かんでくる。