「温故創新」230320 N1200伊波喜一

桜咲く 淡い花びら 風に揺れ 若かりし頃 夢見たるよう

 朝晩の冷え込みから一転して、日中はぽかぽか陽気である。朝露が降りているものの、やがて快晴の空が覗く。何とも爽やかである。

 野火止用水沿いを歩くと、桜が咲き始めている。曇天に白く漂う姿も美しいが、青空に白く映える姿もまた美しい。東京はこれから、満開の季節である。4月は心弾む季節である。

 桜といえば、就職した時の事を思い出す。仕事は手書きの時代であり、ワープロもなく、パソコンなど想像も出来なかった。FAXが最新ツールで、高額で貴重だった。情報伝達は、紙媒体を郵便物で流通するのが主流だった。昭和の躍動があり、数年後にバブル期を迎える時でもある。終身雇用と正規雇用が普通で、給料も右肩上がりだった。

 そんな中、就職した。学生から社会人になったばかりで、右も左も分からない。先輩達の話していることは耳から入ってくるものの、頭の上を素通りしていった。

 身も心も頭もパンパンになった時、先輩に夜桜を見に誘われた。4月になったとはいえまだ寒く、かじかんだ手を擦り合わせた。重い心のまま、公園に着いた。すると、街路灯に照らされて桜が鮮やかに花開いている。全生命力を一瞬に込めて咲くその鮮烈さに、心を揺すぶられた。気づいたら、心の重しが少しがとれていた。

 桜の季節がめぐってくると、あの時のことを思い出す。そして、桜の健気さに感動と感謝の気持ちを新たにする。