「温故創新」200710 N477伊波喜一

母の声 聞き分け触れて 乳を吸う 乳飲み子たちの 姿重なり 

 ヒトの五感の発達は面白い。赤ん坊はまだ目も明かない時から、母親の声を正確に追う。

 胎内から出て聞く母親の声には慣れていない筈が、百発百中聞き分ける。そして乳に触れ、乳を吸い、母親の言葉を全霊で受け留める。 

 その間、目まぐるしく頭を働かせ、脳を使う。この間の母親の根気強さは、比べようがない。

 同じ単語を繰り返し繰り返し、何百回となく語りかける。それも、顔を近づけて覗き込むように語る。 

 ゴリラにもこのような習性が残っている。

 ゴリラにとって覗き込みは「一体化する」ことを、意味する。一体化すると、相手の行動を受け入れなくてはならない。ヒトにもそのゴリラの習性が残っているといえよう。 

 やがて、赤ん坊は母親の言葉を正確に聞き取り、反応するようになる。体と体の接触から、やがて言葉の意味や感情を汲み取ることが出来るようになる。

 実体を伴った言葉は、たとえ短い単語であっても聞き手の心を打つ。ヒトにはそのような素晴らしい能力がある。 

 残念なことに、今、感情や行動を慮らない言葉が横行している。

 そこには、言葉の奥底に横たわる実体感が微塵もない。実体の伴わない言葉を多発する大人を、信じる子どもがいるだろうか。