「温故創新」180917 N250 伊波喜一

敬老の 声聞くことも なかりけり 道しるべかな 皆に惜しまれ 

 30数年来お世話になったN先生が亡くなった。享年89歳。類まれな包容力と文章表現力とで、出会う人を味方にしてしまう稀有な方だった。筆者が駆け出しの頃、社会や仕事に対する鬱屈した不満を漏らすと、先生はいつも最後まで丁寧に話を聞いてくださった。批判めいたことはおっしゃらず、聞き役に徹してくださった。29歳も年下の若造の言うことを、あれほど真摯に受け止めていただいたことに、改めて感謝の念が込み上げてくる。当時の先生の年齢を超えてみて、自然体で居続けた先生の凄さが分かる。 経験に勝るものはない。人は経験することで大きくなる。一方、経験を重ねるとその経験値が逆に足かせとなり、素直に聞くことが出来なくなる。経験を積めば積むほど、行く末が見えてしまう。自ずから結論も分かってしまう。N先生のように最後まで話を聞き通すのは、よほどの信念と包容力がなければ、出来ないことだ。先生に聞いていただいたことで、自身の進むべき方向を自ら修正していけたように思う。 そう思う多くの人達が、先生との今生の別れを惜しんでいた。合掌