「温故創新」240314 N1404伊波喜一

少年の 夢を育み 指し示す 巨匠の描く 世界に浸る  

 サクランボの花が、五分咲きである。暮れにかなり枝を落としたのでどうかと案じていただけに、白い花弁が目に優しく映る。

 宮崎駿監督の映画「君たちはどう生きるか」が、第96回アカデミー賞の長編アニメーション賞を獲得した。

 戦時下で母親を火事で亡くした少年眞人が、黄泉の世界の母親を捜しに行く。そこは甘美な世界であり、留まりたい誘惑に駆られる。しかし、眞人は現実の世界で共に生きていく道を選択する。

 理想郷と異なり、現実は複雑で不明で混沌としている。少年の知恵では、窺い知れない深い闇が存在する。しかし、先が見通せない分、少年は自分の考えで突っ走ることが出来る。たとえそれが大人の敷いたレールから外れようとも、若さゆえの挑戦には意味がある。

 眞人の生き方は一見、無鉄砲に見える。計画的ではなく、行き当たりばったりの感がある。確かに自ら考え、考えの通りに突き進むことは決して簡単な事ではない。現実の苦しさから逃避する方が、生き易いと感じてしまう。

 そんな時に、敢えて困難の道を選択するには、余程の覚悟が無くては出来ないことだ。その積み重ねが、結果として自分らしく生きることに通じていく。

「この世は生きるに値する」と、かつて宮崎監督は少年達に語った。苦しい現実に喘ぎながらも、一歩踏み出す勇気を下支えしてゆきたい。