「温故創新」220301 N1009伊波喜一

退院の この日待ちかね 2週間 口ひげ伸びて 父帰るかな

 朝晩の寒さも、少し和らいできた。ここのところの暖かさで、モッコウバラの芽も先が赤らんできている。立春も間近である。

 誤嚥性肺炎で入院を余儀なくされた父が、退院した。固形物が全く取れず、水さえも飲めない。自分の唾液でさえ、誤嚥する恐れがある。それで、点滴から抗生剤と栄養剤を摂ることにした。万が一その効果がなければ、さらに期間が延びる。

 点滴の効果がなければ、そのまま逝ってしまうことも有り得ると、主治医からは説明があった。このコロナ下で、病院は面会が出来ない。そうなると、入院が永久の別れということも想定された。

 そんなことを思いながら、父を迎えに行った。

 2週間ぶりに見る父は、口ひげこそ伸びているものの、意識がはっきりしていた。手も足も胸も骨と皮になっているが、子ども達や嫁、孫が迎えに来たのを、大層喜んでいた。

 ホームに戻ると、職員から歓声が上がった。皆さんに大事にされている様子が感じられて、家族としてとても有り難かった。

 仏典には「死は一定」とある。生あるものは、誰でも死を迎える。その生と死は連続しており、死は明日への活力を養うための眠りのようなものであると捉えている。

 父の胸をさすると、すぐに眠りにおちた。その穏やかな表情から、親族仲良く、協力していくことを誓った。