「温故創新」200926 N546 伊波喜一

秋雨に 人影まばら ゆっくりと 日本の名宝 心ゆくまで          

 三日来の霧雨が降り続いている。1年ぶりに、八王子郊外の東京富士美術館まで足をのばした。

 同館では「永遠の日本美術の宝」が開催されている。

 日ごろ目に触れることのない作品が、展示されていた。コロナ禍のため混雑しておらず、ゆっくり観ることができた。 

 長谷川派や琳派が描く白菊や松桜、白梅、紅梅、萩は、淡い色合いに対象が浮かび上がってくる。西洋の油絵とは違い、濃淡の陰影で対象が映えるように描いている。 

 狩野派や岩佐派の描く洛中洛外図屏風源氏物語図屏風は、金箔の光沢が古色然としていて、時空を超えて往時にタイムスリップしたかのようだ。 

 北斎富嶽三十六景や広重の東海道五拾三次も、近代の作家と対比して並べてある。同じ富士山でも筆致や対象の切り取り方が異なり、その違いが浮かび上がってくる。 

 中でも印象に残ったのは、鈴木其一の「風神雷神図襖」だ。風神と雷神の躍動感を金屏風に巧みに配置し、襖の裏表に描いている。金地に墨のツートーンカラーから、天空の大気の不安定さが伝わってくる。風神・雷神も下界に飛び降りてきそうである。一瞬に永遠を宿す作家の筆致に、ただただ驚くばかりだ。 

 見終えた頃には、陽が落ちかけていた。秋の夕暮れは早い。