「温故創新」191029 N342 伊波喜一

晩秋の 絵画にふれる ひとときを 皆でくつろぐ 日の来ることを

 東京富士美術館で「フランス絵画の精華」展が行われている。白眉は「ポリニャック侯爵夫人」であろう。ポリニャック侯爵夫人は、フランス王ルイ16世の王妃マリーアントワネットの取り巻きの一人である。傾いた家運を回復するべく、ポリニャックは機転を利かせてマリーアントワネットに近づき、その寵愛を手にした。遂には女官長にまで登りつめた。しかし、人民の疲弊を直視せず、華美と浪費を繰り返したために、マリーアントワネットは断罪される。その因を作ったひと(女)として、ポリニャックは悪名高い。漫画「ベルサイユのばら」でも、おなじみである。 ルブラン作のポリニャック侯爵夫人は麦わら帽子をさり気なく被り、ブロンドの巻き毛を覗かせている。白いリンネルの上衣が、かえって肌の白さを際だたせる。かすかに唇を開いて真っ直ぐにこちらを見つめ、今にも何か話しかけてきそうである。その筆致の巧みさは、写真を上回るかのようだ。 芸術や文化は時代の荒波を経て洗練され、後世に残った。そこには見る者の心を揺さぶる何かがある。天変の打ち続く時だからこそ、文化的な活動にふれる機会の来たらんことを、強く思う。