「温故創新」 191003 N327 伊波喜一

   191003 N327 伊波喜一

 時感じ 時過たず 咲き薫る 道路の端に 咲く彼岸花 

 10月だというのに、半袖で過ごしている。一体どうしたものか。そんな中、道路端には彼岸花が朱色の花を咲かせている。陽気に惑わされず、時に感じて花を開く。自然の妙と言えるかも知れない。  

 藤沢周平最後の作品に「偉丈夫(いじょうふ)」がある。東北の小藩を舞台にした作品で、商品経済の勃興を下敷きにしている。そこで本藩海坂(うなさか)藩と支藩海上(うなかみ)藩とに起こる、漆山の境界争いを描いている。海坂藩の交渉役は能弁の加治右馬之助、対する海上藩の交渉役は寡黙の片桐権兵衛である。 いざ交渉が始まってみると、大方の予想通り、片桐は能弁の加治に押され、陳弁に窮して額に冷や汗を滴らせる。まさに、軍配が海坂藩に上がろうとした時、「それは出来申さん」と片桐の大声が響く。「藩祖の遺志に違って横車を入れるようなら一戦も辞さぬ」と逆ギレする。その姿に加治は、事を荒立てないよう手を引くという話だ。 あわや、お家騒動へと発展しかねなかった境界争いを、藤沢は寡弁が能弁に勝つというユーモアでくるんだ小説に仕立てている。波瀾万丈の人生を過ごした藤沢のこのオチに、幕引きの見事さを感じる。