「温故創新」220104 N984 伊波喜一

芸術の 目的見つめ 明らかに 誰のためにか 音楽奏でん     

 第98回箱根駅伝が終わった。青山学院大学が、大会新記録の10時間43分42秒で優勝した。自律と自立の意識を選手に根づかせた原監督の手腕に、敬服する。

 ショパン国際ピアノコンクールで、ピアニストの反田恭平さんが2位に入賞した。反田さんは日本の音楽界に疑問を呈している。

「ロシアやポーランドに留学したら、日本よりも楽しそうに音楽教育をしていた」。「小さい時に音楽を始めた、あの時の楽しい感覚を思い出してほしい」。

「誰しもが子どもの頃、音を鳴らして喜んでいた感覚を、次世代に伝えていくのが音楽を継承するということではないか」。

 反田さんにとって、ずばり音楽とは何か。

「自分のためだけの音楽というのではなく、その時間を誰かと共有していくのが音楽の本質である」。

「みんなで演奏したり、共に時間を過ごしたりしていると、必然的に音楽の方がこちらへ近づいてくる」。「誰かと触れ合っていると、音楽は温かくなる。それが、自分にとっての理想の音楽である」。

 言葉の奥底に、利他の精神が流れている。芸術至上主義と自利とは、紙一重である。その魅力に魅入られると、耽美主義に堕しかねない。

 何のための誰のための芸術か問うことは、芸術の本質に根ざす。そしてそれは、利他の心と重なっているのではなかろうか。