「温故創新」211204 N960 伊波喜一

懐かしき セリフ回しに 芸の味 もう一度観たし 鬼の平蔵

 師走もあっという間に過ぎていく。大掃除、片付け、賀状書きとやることが、目白押しである。

 11月28日、歌舞伎俳優で人間国宝中村吉右衛門さんが、心不全のため亡くなった。享年77歳。吉右衛門さんは歌舞伎の「俊寛」や「勧進帳」の「弁慶」、「河内山宗俊」など、時代物から世話物の幅広い芸域で、多くの当たり役を生んだ。

 今でも繰り返し観ているのは、テレビの時代劇「鬼平犯科帳」である。火付盗賊改方として、極悪を追求し暴く長谷川平蔵

 人殺しも辞さない盗人達から鬼のように恐れられ、蛇蝎の如く嫌われ、憎まれる平蔵を、剛直だが人情味あふれる演技で惹きつけた。

 かつて、盗賊として悪を重ねていた輩を更生させ、探索者として使う場面でも、声のかけ方や眼差しが優しい。人として、同じ目線で語りかけるその仕草には、得も言われぬ魅力があった。

 時代劇に欠かせない酒の場面でも、お猪口の持ち方や飲みっぷりが粋で、見惚れてしまった。

 4代目鬼平として、89年から28年間、150本も続き、当たり役となった。

 3月末に体調不良を押して舞台出演したのが、最後となった。「役者は舞台に上がらないと、生きていることにならない」との言葉通りに、人生を燃焼した。                                                    合掌