「温故創新」211019 N914 伊波喜一

エンタメと 世代を超えた ヒーリング 心を癒す 昭和歌謡     

 空の色が薄い。駆け足の冬に追いつかれて、慌ててストーブを出した。代わりに、5カ月もお世話になった扇風機の羽の汚れを丁寧に拭き取る。ついでにコートや手袋、マフラーも準備をしておこう。

 今、若者の間で昭和歌謡が注目されている。

 昭和40年代中頃から出てきた演歌に民謡、ポップスが加わって出来上がったとされる昭和歌謡。今風にテンポや言葉が早く、音域が広いわけでもない。楽器や音響機器、レコードの音質も、今と比べると格段に落ちる。

 ところが、若者達には「エモい」と言われている。

 エモいはエモーショナルを由来とする造語で、懐かしい、もの悲しい、しみじみとするなどといった時に使われる。

 演歌同様、昭和歌謡には物語性がある。

 例えば、ちあきなおみの「喝采」の出だし。「いつもように幕が開き 恋の歌うたうわたしに 届いた報らせは 黒いふちどりがありました」。難しい言葉を一つも使っていないが、2人の関係を黒いふちどりが予知させる。短いフレーズに、ストーリーが凝縮されている。

 デジタル世代で時間と情報を追いかけ、追い回されている若者には、言葉の奥にある情感が染みるのかも知れない。

 それは、若者に限らない。人は人の世界を離れては生きられない。そして人の世界は、言葉を離れては成り立たないのだ。