「温故創新」210929 N894 伊波喜一

遂に聞く 引退の声 横綱の 満身創痍 記録打ち立て          

 リビングの天井に、何かぶら下がっている。埃にしては大きすぎる。よく見ると、薄色のクモが身動きもせずにいた。一体、どこから入ったのだろう。

 横綱白鵬関が引退することを決めた。通算勝ち星1187勝、優勝回数45度、横綱在位場所数84場所、横綱連続出場722回は、人間技とは思えない前人未踏の大記録である。

 15歳入門時の体重は60㎏。それが四股、すり足、てっぽう(もろてづき)の基本を徹底し、155㎏の偉丈夫へと変身した。

 残念なのは勝負へのこだわりが、張り手やひじ打ちなどの荒業として出たことだ。また土俵に倒れた相手の上で、派手なガッツポーズや雄たけびをあげた。これらの行為が、横綱審議員会から「横綱の品格に欠ける」と注意を受けた。

 反面、東日本大震災後に岩手県陸前高田市の高田小学校で、土俵入りを披露した。被災した多くの人達が、「元気をもらった」と喜んだ。子ども達の国際相撲大会「白鵬杯」も主催し、未来の力士達の支援をしてきた。

 当然なことだが、土俵上の勝負師の顔と被災地や子ども達の前で見せる白鵬関の素顔とは違う。

 今後は親方として、後進を育てていく立場になる。勝負師と育成者とでは立ち位置が異なるが、白鵬関なら名伯楽となるに違いない。